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2010/03/22 22:06

 舞闘を行うための控えの場へと続く回廊に足音が響く。灯りをともしつつも暗い中、前を歩く背を見つめる。これが、現在の彼女と自分の距離なのかもしれない。
 先日彼女は、探し求めている相手は「対岸」にいるのだと言った。それが自分ならば。向こう岸から彼女が求めれば。たとえ困難であろうとどんな手段を用いてでも彼女のほうへ渡っていく。しかし、彼女が求めるのが今の自分なのか、自分が彼女の求める形に応じられるのかを考えると、その距離を縮めることにはためらいがあった。
 昨晩からずっと、ぎこちない空気が二人の間に漂っている。ぎこちないと言えば語弊があるかもしれない。もはや秘密立てにする事柄がない分、ナツキはこれまでよりくつろいだ態度を取っていた。しかしソファに腰掛けたまま時折、シズルの一挙手一投足に過敏に反応したり、それとは反対にぼんやりシズルを眺めたりしていたり。視線を合わせるとぎこちない笑みを見せる。彼女もきっと寂しいのだろう。そして、現状に戸惑っている。
 自分が押し進めれば、彼女は最後には陥落することは見て取れた。しかし、自分はひどく欲深で、その心も十分に得られなければ満足できないでいる。
 手を伸ばせば届く距離に居ながら、その背はひどく遠く感じられる。
 と、その背が急に歩みを止め、振り向いた。
「シズル。……今日は死ぬにはいい日だな」
 灯りの光を背負い、黒い影となったナツキが言う。



「シズル。何もないに越したことはないが、有事の際には気をつけろよ。今のお前は、ローブの展開ができないんだからな」
 灯りの光を背負い、黒い影となったナツキが言う。


 学園長室内では二人が去り、二人が残った。
 残ったうちの一人であるナツキが、ついと窓辺に歩を進めた。
「ああ、本当に今日はいい天気だな」
 窓に顔を寄せ、眼下の緑を覗き込み眩しそうに目を細める。
 隣へと並んだシズルに目を移し、わずかに口を開きかけたような行動の後、少し複雑そうな表情になった。
 こちらが何かをしたというよりも、今のはむしろ。過去に関する何かを思い出してのことなのだろう。
 戸惑ったように目を逸らしたナツキの表情から推し量る。こうやって自分たちは、少しずつ傷ついていくのだ。こちらが寂しい思いをするのは構わない。しかし、彼女を傷つけるということがひどく居た堪れなかった。
「今回のことは、済まなかったな。私のせいで迷惑をかけた」
 窓外を見る姿勢のままにナツキが言葉を発した。
「いいえ? 今後のことを考えたらせなあきませんことですし」
 同じく窓辺で眼下に吹き渡る風と緑を眺めているふうにしながら答えを返す。
 その答えに対して、うん……と声が漏れた。
「それなんだが。今日の行事が終わったら学園内にも少し余裕ができる。未だ諸問題は山積したままではあるがな。平時は対外的なことは私が出るから、シズルはヨウコ主任と地下研究室に詰めていてもらおうと思う」
 シズルが口を開こうとしたとき、これは学園として必要な措置だ、納得してもらえるなと慌てたふうに言葉が続けられる。
「有事のときにローブが展開できないのは問題だからな」
 全く大人は不便だ。少女たちのように嘆いているだけでは済まないし、使える駒は休ませているわけにもいかない、とナツキが口元を歪めた。
「……まあ、シズルが素手でも十分に強いことは、私も身をもって知ってはいるが」
 ナツキは口元をやや緩め、少しおどけたように掌を肩の高さまで上げて降参のポーズをとって見せる。そして視線が再度こちらに向けられた。窓外の光を受けて強く輝く碧の瞳。
「もっと私を信用しろ。これでも五柱の二にして、ガルデローベの学園長だぞ。だから。シズルは自分のことに専念しろ」
 意志を込めた瞳にじっと見据えられる。やがてその視線が苦笑を帯びた。
「まあ、これも私のわがままみたいなものかもな。……もうあんな姿を見るのはゴメンだ」
 今回の発端はシズルがナツキをかばって負傷をしたことがそもそものことである。トップたる者を守るのは側近の務めだといえるが、その行為もその後の展開もがナツキを甚く傷つけている。
 有事の際にはローブの展開など無視する気ではいるが、シズルはナツキの言葉に了承の姿勢を取った。
「……わかりました」
 その言葉の後、室内には沈黙が訪れた。
「本当に今日はいい天気やね。死ぬにはもってこいの日やわ」
 沈黙を破ったシズルの言葉にナツキがギクッとした顔を向ける。
 満ち足りた一日、という意味の他に、それまでの価値や物事を一新するという意味を持つのだと。
「あんたにとってうちは紛いものみたいなもんやろしなあ」



 衝撃は風華宮の披露の際に起こった。宮廷内にも入り込んでいたシュバルツの暗躍の元、密かに建造された新風華宮の砲台が火を噴き、周囲は騒乱の渦となった。
 爆炎が眼前に広がった瞬間、大波が押し寄せるかのように体内に沸き起こる感覚に洗われる。
 周囲の騒乱をどこか遠くで響くもののように感じながら、体内に巻き起こる激しい動乱に耳を澄ませ、神経が苛まれる感覚にとらわれた。
 「シズル!」
 飛塵の中、横に現れた青い服を纏った人物に腕をとられ、引き寄せられる。

「五柱の二、学園長たるナツキ・クルーガー、ご真祖様に願う。エマージェンシー、全ての生徒にローブの展開を認められたし」
 ナツキが緊急のローブ展開を求め、生徒たちの
「何をやってる、危ないだろ!」
 叱責しようとしてナツキは、茫然と不思議そうな色を浮かべた瞳がこちらを見ているのに気づく。
 「シズル?」じっとりと嫌な汗が背に張り付いた。全身が総毛立つ。

 しかし数度瞬くと瞳は明瞭な色を取り戻し、ゆるく微笑まれた。そして「何でもありません。急ぎますえ、学園長」とはっきり返答した。
 

「うちが囮になります。せやからナツキは」
「できるかそんなこと。……ならばいっそここで」
「甘えたこと言うたらあきません。あんたが無事やったら学園が占領されてもガルデローベはなくなりはしません。せやから……ね?」
「わかった」
「それでこそうちのナツキどす」



「せや、ナツキ疑うてたみたいやから、もう一度言うときます」
「何をだ」
「うちは本気どすから」
「だから何をだ」
「せやから。引退後は、わんころ飼うて子どもを育てましょうな、いう話どす」
 そう言うと、シズルはにこやかに笑った。
「ば……っ! 今、言う話じゃないだろ!!」
「ナツキ疑うてたやない、うちの本気。落ち着いたら楽しみに待っててな?」
 
「……分かった。では、楽しみにしておく」
 
「……死ぬな!!」
 そう言うと、触れ合った手を一瞬強く絡ませ、ナツキはシズルの背から飛び出した。
 そして今。走り去ったナツキの強い背中となびく艶やかな髪を鮮やかに思い描きながら、シズルは黄金の日々の再開を待っている。


(終了)
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